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Page No.8
◆ ガバナー( Governor )について ◆
Essay008 掲載 2005/4/22

標準的なアンティークシリンダー・オルゴールについているガバナーはGlossaryG0054シリンダー・オルゴールのイラストで見られるように羽根(ガバナー・ベーン)のついた軸です。ガバナー部分の拡大図はGlossaryG0053シリンダー・オルゴールのガバナーをご覧ください。

ガバナーの形態にはよくメーカーの特徴が現れている場合が多いです。その原理からエア・ブレーキとも呼ばれます。錘を振り回す方式(採用例はステラ、定置型の蒸気機関でよく採用されていました)もありました。アンティークのシリンダー・オルゴールの場合、曲全体のテンポ調整ができるようにしたものがあります。ガバナー・ベーンの角度を変えて風に当たる面積を増減する方式、エンドレス・スクリューに抵抗を与える方式などがありました。

ガバナーの役目は2つあり一つは不安定なスプリング・モーターの力を安定した回転に制御し、シリンダーの回転速度を一定に保つことです。シリンダーのピンが多くなって櫛歯を弾こうとする抵抗が大きくなりシリンダーの回転速度が落ちるとガバナーの空気抵抗が減ってシリンダーが速く回転しようとします、逆にピンが少ない部分に来るとシリンダーの回転速度が上がって空気抵抗が増えて遅く回転しようとします。それでスプリング・モーターの力の範囲内で一定の演奏速度を実現できます。

もう一つの役目は演奏を停止する時に羽根に停止用の軸(ストップ・スプラグ)を当ててガバナーの回転を停め、演奏を停めることです。

なおムーヴメントケースから取り出す場合はガバナーを破損したり、不用意にねじを緩めたりしないように特別な注意が必要です。もし不用意にガバナーを破損したり、取り付けているネジを緩めたりするとガバナーで回転を止められていたスプリング・モーターの力が一気に放出され、シリンダーが一瞬のうちに急速に回転し次いで逆回転して櫛歯を折りピンを曲げ貴重なオルゴールを全損状態にしてしまいます。この現象をランと呼び恐れられています。

リュージュ社製シリンダー・オルゴールのガバナー
現代のリュージュ社製シリンダー・オルゴールのガバナーはアンティークのものとは異なり、スプリング・モーターもガバナーも左側にまとめて配置されています
左側はメルモード・フレール社で採用された演奏速度調整タイプのシリンダー・オルゴール用ホリゾンタル・ガバナー。
出典 カタログ・リプリント Heeren Bros. & Co., 1869年P-58

中央はガバナーのエンドレス・スクリュー、(ウォーム・ギアの付いたシャフト)右側はガバナー・ベーン(羽)。
出典 カタログ・リプリント Heeren Bros. & Co., 1869年P-61

メルモード・フレール社で採用されたホリゾンタル・ガバナーと一般的なガバナー・ベーン
レジーナとポリフォンのガバナー 左側はレジーナ社テーブルトップ型ディスク・オルゴールのコンパクトなムーヴメント。上部にガバナーが見えます。 出典 Practical Instructions Regina Music Boxes P-5
右側はアップライト型ディスク・オルゴールPolyphon 104のモーター部分例。中央やや右寄りにガバナーが見えます。
ディスク・オルゴールのガバナーは原理がまったく同じですがもっと大きくなり、より有効に働くように工夫されています。
ポリフォン社
ガバナーの羽根にもう一つの一回り小さな羽根が細いコイルスプリングで取り付けられています。回転数が上がるとコイルスプリングが伸び、小さな羽根も広がり空気抵抗がより大きくなります。
シンフォニオン社
ガバナーの羽根の先端がリボンのように薄い真鍮の板になっており、回転数が上がると遠心力で羽根の先端が広がって空気抵抗がより大きくなります。
メルモード社製のステラやミラ
錘を振り回す方式(定置型の蒸気機関でよく採用されていました)が採用されていました。錘の付いた枠を遠心力でブレーキに押し付けて調速するものです。

古いオルゴールが動かなくなった、テンポが遅くなった、ガバナー・ベーンを弾いてやらないとスタートしなくなったというような良くあるトラブルは、ほとんどがガバナー周辺の問題です。ガバナーの減速比は50倍近くになります。大きな力をか細いエンドレス・スクリューで止めているのです。ガバナーを分解するときは必ず解説書をよく読んで原理を理解し、正しい手順で行わねばなりません。手順を誤るとガバナーで回転を止められていたスプリング・モーターの力が一気に放出され、シリンダーが一瞬のうちに急速に回転し次いで逆回転して櫛歯を折りピンを曲げ貴重なオルゴールを全損状態にしてしまいます。この現象をランと呼び恐れられています。修理に必要な部品(半加工のものもあります)や油脂はニューヨークのPanchronia Antiquitiesから輸入できます。

ガバナーにゴミが引っ掛かっている。不適切に粘度の高い油を注した。
   分解して掃除しなければなりません。
エンドレス・スクリューの軸受けが磨耗したり割れたりしている。
   軸受けはエンド・ストーン(ジュエル・ストーン)と呼ばれ人工ルビーでできています。長年の使用で割れたり磨耗し
   たりしていたら、交換しなければなりません。
注油
   清掃した後で適切な油(エンジンオイル、またはギア・オイル)をわずかだけ注油。多いとゴミを呼び問題です。
エンドレス・スクリューやピニオン・ギアの磨耗
   ウォーム・ギアやピニオン・ギアの歯面が磨耗した場合は、ラッピングで元の歯型を再度生成するか交換です。
調整ネジ
   エンド・ストーンの取り付けブラケットやガバナー・ブロックには傾きや位置を調整するネジが付いている場合があり
   ます。うかつに緩めると調整は泥沼化するかもしれません。

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