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ステーション・ボックス ( station box )
g032 G0314 掲載 2005/6/15

スイスの鉄道の駅に設置されていたコイン・オペレート式のシリンダー・オルゴールです。列車の待ち合わせをしている人々に、オルゴールによる音楽や人形のダンスなどを提供して無聊を慰めていました。このタイプのオルゴールを数多く作ったメーカーはスイスのサント・クロワ村で1880年に創業したAuguste Lassueur社です。
ステーション・ボックスの例
専用の台の上に載せられたステーション・ボックス
ステーション・ボックスの例です。右側にコインを入れるコイン・スロットが見えます。コインを入れるとカーテン(いや緞帳ドンチョウでしょう)が揚がって行ってオルゴールの演奏と人形のダンスが始まります。演奏が終わると元のように緞帳が降りて来ます。オルゴールのケースはプロセニアム・アーチですね。



上のステーション・ボックの緞帳が開いているところです。人の目も楽しませるためにベルや太鼓が賑やかに鳴るオーケストラ・ボックスが入っています。
ファミリア坂野コレクション


専用の台の上に載せられたステーション・ボックスの例です。スプリング・モーターが2組見えるのは、長時間ゼンマイを巻き上げなくても運用できるようにするためです。

この写真はノフ・アンティークス・シェルマンの磯貝氏の好意で撮影したものです。

ステラ ( Stella )
g032 G0315 掲載 2006/6/27

ステラはスイスのカントン・ヴォーにあるサントクロワ村で操業していたシリンダー・オルゴールのメーカーであったメルモード・フレール社によって製造されていたディスク・オルゴールのブランドの一つです。メルモード・フレール社はディスク・オルゴールの生産を始めるにあたって、基本的な特許を持っているシンフォニオン社と対立するのではなくて、ライセンスを得るという政策を採りました。ステラは一般的なテーブル・トップ型アップライト型のほかに、大きなコンソール型も販売されていました。

ディスク・オルゴールとしては後発ブランドのステラには、それまでにない精巧ないくつかの新機軸の設計が盛り込まれていました。そのため今ではステラが破損すると精巧な部品を作るのではなくて、別のステラから取ってきた部品で修理することがよく行われています。

1. ステラのプレッシャー・バーは従来のディスクの半分をカバーするものではなくて、ディスクの直径すべてをカバーする長さのものになりました。

2. ディスクにはプロジェクションがありません。このことはテーブル・トップ型のディスク・オルゴールの本体下に組み込まれているような薄い引出しでも100枚ものディスクを収容できました。スターホイールはバネでディスクの下側に押し付けられて滑っていくようになっています。そのためディスクに錆や凹凸があると、スターホイールを保持している部品が破損します。ディスクの裏側に塗油する専用の工具が販売されていました。

3. 最小のモデル以外はすべて櫛歯が2枚あり、1枚は通常に位置に取り付けられていましたが、もう1枚はスターホイールの下に垂直に取り付けられていました。そのため下側の櫛歯は分解しないと観察できません。ステラは高音側の櫛歯が折れやすいのもかかわらず、櫛歯が折れていてもなかなかわかりません。

4. 櫛歯の先端が逆三角形になっていて、折れた櫛歯を修理するのは面倒です。

5. 鎧戸のような特殊な形状のダンパーを使用していました。サイト・オーナーも見たことがありますが、動作原理は分かりませんでした。
アップライト型ステラ
テーブルトップ型ステラ
ステラの大きなアップライト型(26インチディスク)です。矢印部分のプレッシャー・バーがディスクの直径のすべてを押さえるようになっているのに注目してください。

この写真は東京都文京区にあるオルゴールの小さな博物館の好意で撮影したものです。






ステラの代表的なテーブル・トップ型。ケースの下半分にプロジェクションの無いディスクを約100枚収容できました。アールヌーボー様式の装飾に注目してください。

この写真は東京都文京区にあるオルゴールの小さな博物館の好意で撮影したものです。
ステラは1896年ごろから販売されていました。メルモード・フレール社はムーブメント(輸出梱包をしやすい細長い形をしていました)だけを作って輸出し、販売店は現地で製作したケースに収めて販売していました。

ステラの編曲は櫛歯のスケール(音階)が限られているため、重要なメロディー部分(特に♯や♭が付いている音)がかなり抜けているという問題を持っています。それにもかかわらずステラの優れた音質はそのような音楽的な欠陥を覆い隠してしまうほど素晴らしいものです。

ステラはポリフォンレジーナのような一般的なオルゴールと比べて、メカニズムが凝りすぎで高価でしたし、その登場の時期も遅すぎました。ビジネスの観点からは決して成功したとはいえないでしょう。珍しい電動式のオルゴールもステラのカタログに掲載されていましたが、実機はまだ発見されておりません。

ステラのディスク・サイズは下記の5種類が知られています。
  9 5/8インチ 24.4cm 型番 40シングル・コーム) 80デュプレックス・コーム
  14インチ 35.5cm
  15 1/2インチ 39.8cm 型番 150
  17 1/4インチ 43.8cm 型番 84 168 268
  25 11/16インチ 65.2cm 型番 200 202 203

ストップ・スプラグ ( stop sprag )
g032 G0316 掲載 2005/8/31

演奏が始まる前の停止状態のディスク・オルゴールはストップ・スプラグ(写真で見られるように金属の細い棒です)の先端(ストップ・テイル)が、ストップ・アームに当たっていてガバナーの回転を停止させています。コインを投入すると(またはオーナーがオーバーライディング・ディバイスを操作すると)バランス・アームの左側(コイン・パンのある方が)下がり、ストップ・スプラグが開放されて演奏が始まります。

ディスク・オルゴールの演奏を曲が終わった時点で停止させるには、ガバナーの軸に取り付けられたストップ・スプラグの先端(ストップ・テイル)をストップ・アームに当ててガバナーの回転を停止させます。ストップ・スプラグの根元はスプリング状になってガバナーの軸に巻きつけられており、停止時のショックを和らげるようになっています。

演奏が進んで2/3ぐらいのところへ来るとタイミング・ギア(写真参照)の突起がバランス・アームを押し上げてコイン・パンからコインをコイン・ドロワに落とします。コイン・パンが軽くなるとバランス・ウエイトの重さでバランス・アームが上がりストップ・スプラグ(写真で見られるように金属の細い棒です)の先端(ストップ・テイル)が、ストップ・アームに当たってガバナーの回転を停止させます。
ストップ・スプラグとストップ・アーム
上の写真ではタイミング・ギアの突起がもう少しでバランス・アームを持ち上げようとしています。バランス・アームが上がるとコイン・パンに入っているコインをコイン・ドロワに落とします。


ストップ・スプラグの先端(ストップ・テイル)は細い金属の棒です。ストップ・テイルがストップ・アームの先端の曲げられた部分に当って演奏を停止させています。


大型のシリンダー・オルゴールに取り付けられているストップ・スプラグの形状や位置などについてはイラストG0053シリンダー・オルゴールのガバナーをご覧ください。シリンダー・オルゴールはグレート・ホイールのドロップにスタート・ストップ・レバーが入り込むとストップ・スプラグの回転を停めてオルゴールの演奏を停止させます。
安価な小型のシリンダー・オルゴールではストップ・テイル(衝撃音を避けるために先端にゴムが巻きつけられています)を直接ガバナーの羽(ガバナー・ベーン)にぶつけて停止させるものが多いようです。

ストリンギング
g032 G0328 掲載 2005/7/4

この用語に関してはオルゴール用語集の中にある「クロス・バンディング」G0219の記事を参照してください。その記事の中では赤字でこの用語を表記しています。
イギリス Holy Trinity Church, Stratford on Avonの風景を掲載しています。

スナッフ・ボックス ( snuff box )
g032 G0317 掲載 2005/7/4 改訂2 2014/3/24

スナッフ・ボックスを説明する前に、まずスナッフ(嗅ぎタバコ)を説明しなければなりません。日本ではタバコは火をつけて煙にして味わうものですが、ヨーロッパで楽しまれている嗅ぎタバコは鼻の粘膜から直接タバコの微粉に含まれている成分を吸収させるものです。詳しくは黒川商店のサイトをご覧ください。そこの特徴は「400種類を扱う本格的なタバコ店」「葉巻から、パイプに紙巻タバコ。さらに嗅ぎタバコまで外国の珍しいタバコなどが買える。」ということだそうです。嗅ぎタバコの楽しみ方のノウハウも掲載されております。

フランスのカトリーヌ王妃が嗅ぎタバコを愛好し、イギリスにその習慣が渡ってジョージ4世( 在位1820〜1830年 )やその周辺の人たちが愛好しました。そして嗅ぎタバコを入れる容器(スナッフ・ボックス)は、一つの美術品として愛好家のコレクターズアイテムとなっています。オルゴールが発達を始めた初期の時代と嗅ぎタバコの時代が重なっています。

そのケースの材料としてよく用いられているのは鼈甲( tortoise shell )、コンポジション( composition 皮革と天然ゴムの複合材?)、銀、金、象牙のような凝った材料です。またブリキ( tin )のケースに組み込まれたものもたくさん残されています、これは仮のケースではなかったのでしょうか。

スナッフ・ボックス・オルゴールのムーブメントには多くの場合、2曲で50ノート程度の櫛歯を持つ小型のシリンダー・オルゴールが組み込まれています。

嗅ぎタバコは香りを楽しむためのものですから、アンティークのスナッフ・ボックスには使われなくなってから100年以上が経過した今でもそのきつい香りが残っています。
黒いコンポジションのケースと銀のケースに収められたスナッフ・ボックス
林望著「イギリスはおいしい」
典型的な黒いコンポジションのケースに収められたスナッフ・ボックスです。ケースの手前の白い二つのボタンはスタート・ストップと曲目変換のためです。
撮影記録なし。




銀のケースに収められたスナッフ・ボックスです。
この写真はノフ・アンティークス・シェルマンの磯貝氏の好意で撮影したものです。



この本の158ページにイギリスの大学での嗅ぎタバコの楽しみ方が面白おかしく紹介されています。
林望著「イギリスはおいしい」 平凡社 1991年3月初版
大変面白いエッセイです、つまらないこのサイトのGlossaryなんかを眺めるのはよして、このエッセイを読まれるほうを強くオススメします。(サイト・オーナー)




これは典型的なスナッフ・ボックスの動画です。

スパイラル・スプリング・モーター ( spiral spring motor )
g032 G0318 掲載 2005/7/18 改訂1 2006/6/9

ディスク・オルゴールを駆動するスプリング・モーターは細長いリボン状の鋼の薄板をシャフトに巻き込んでいる形をしているのですが、後期の製品の一部では太い鋼鉄線をコイル状に巻いたものが採用されることもありました。このタイプはかなり珍しく、ポリフォン社レジーナ社の後期の型に少数が見られます。サイト・オーナーの実見したものも5台(全てポリフォンでレジーナの例は見たことがありません)程度です。

ケースの外側から見ても気づくことはないのですが、例外としてスパイラル・スプリングを留める部品がケースの左側面に取り付けられている例(ポリフォン19インチ・オートマチック・ディスク・チェンジ)があります。

普通のスプリング・モーターはシャフトがスプリングを中心に向かって巻き締めていく形で動力を蓄えますが、スパイラル・スプリングの場合はクランクを巻き上げていくとスパイラル・スプリングの直径を僅かに広げる形で動力を蓄えます。

この方式のスプリング・モーターは他のメーカーで採用されなかったのを見るとあまりメリットは無かったようです。あるリストア技術者から聞いたのですが、どうも普通のタイプと比べて力が弱かったようです。
ポリフォン社製24インチの蓄音機付きアップライト型オルゴールのスパイラル・スプリング・モーター
キャピタル・カフ・ボックスのスパイラル・スプリング
これはポリフォン社製24インチの蓄音機付きアップライト型オルゴールのスパイラル・スプリング・モーターです。太い鋼鉄線を巻いたスプリングに注目してください。このオルゴールの蓄音機に関係する部品はほとんどが失われていました。
このオルゴールは日露戦役の鹵獲品でクロパトキン将軍の持ち物だったそうです。
この写真は兵庫県豊岡市の浄土真宗本願寺派信楽寺(しんぎょうじ)の住職である善藤大慧氏の好意で撮影したものです。

ベッド・プレートの下に2本にスパイラル・スプリングが見えます。ハンドルを巻き上げるとチェーンがスパイラル・スプリングを引っ張って圧縮して動力を蓄えます。
この写真は東京都文京区にあるオルゴールの小さな博物館の好意で撮影したものです。

アメリカのオットー・アンド・サンズ社で作られていたキャピタル・カフ・ボックスというオルゴールに、珍しい方式のスパイラル・スプリング・モーターが採用されていました。下の写真のようにベッド・プレートの下に2本のスパイラル・スプリングとそれを引っ張って動力を蓄えるためのチェーンが組み込まれています。

スピード・コントローラー ( speed controler )
G0320
ただ今執筆中です。メールで督促していただきましたら、この項目のUpLoadを急ぎます。
イギリス Anne Hathaway's Cottage, Stratford on Avonを掲載しています。

スプリング・モーター、ゼンマイ、全舞 ( Spring Motor )
g032 G0305 掲載 2005/4/10 改訂12008/8/4

この部品の形状や位置などについてはイラストG0054シリンダー・オルゴールをご覧ください。
オルゴールの動力は大型小型形式を問わずほとんどがスプリング・モーターです。特にアンティークで電動式はきわめて珍しいものです。サイトオーナーは写真ですら一度も見たことがありません。シンフォニオンで電動式のアップライト型オルゴール(Style192St.Eで1900年製)があるという記述がBowersの Encyclopedia P215にあります。最近の製品で三協精機製の大型のペーパーロールを使うオルガニート140というオルゴールとかオルフェウス80弁田代音楽研究所のレジーナ互換ディスク・オルゴールは当然電気モーターを動力源にしております。

大型のシリンダー・オルゴールでは長時間演奏するために2台のスプリング・モーター(直列または並列があります)を持ったものがたくさん作られています。ディスク・オルゴールで2台のスプリング・モーターを持つのはオートマチック・ディスクチェンジのものかマルチ・ディスク(ディスクが2枚または3枚同時に回転するもの)に限られます。
シリンダー・オルゴールで2台のスプリング・モーターを持っている例
ディスク・オルゴールのモーターの例
シリンダー・オルゴールで2台のスプリング・モーターを持っている例。
出典 カタログ・リプリント G.Baker-Troll P25
左端に直列になった2台のスプリング・バレルが見える。




ディスク・オルゴールのモーターの例
スプリング・モーターがピラーと呼ばれる金属の柱の間に巻き込まれている。
Polyphon 104のモーター部分 「あとりえ・こでまり」でリストア作業中。


スプリングは通常薄くて細長い鋼鉄の板で、シリンダー・オルゴールの場合は箱(スプリング・モーター・ハウジング、スプリング・バレル、香箱)に巻き込まれグリスとともに封入されています。ディスク・オルゴールの場合スプリングはむき出しでピラーと呼ばれる柱に囲まれているものと香箱と呼ばれる箱に入っているものとがあります。スプリング・モーターの分解はきわめて危険です、Webbの本によると死亡事故があったそうです。スプリングの巻き込みには専用のジグも必要ですので、この辺りは専門家の出番です。

後期のポリフォンに多いのですが、金属の丸棒を太いコイル状に巻いてスプリング(スパイラル・スプリング)としたものが時折見られます。どうもこのやり方は力が少し弱かったようであまり普及しませんでした。

アンティークの場合スプリング・モーターの端が折れるという事故の復旧の折に短く切り取られるということがあるようです。またスプリング・モーターの代わりに電気モーターに取り替えられているオルゴールを見たこともあります、これは悲しい光景でした。

最近電気モ−ターで駆動されているヘルヴェチア製のディスク・オルゴールの写真が、MBSIのCoulson Conn氏の好意で掲載できました。ここをクリックしてください。