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タイミング・レバー ( timing lever )
g042 G0419 掲載 2005/9/2

コイン・オペレートディスク・オルゴールにはコイン1枚で1回演奏と2回演奏が選択できるものがあります。サイト・オーナーはポリフォン104しか経験がありませんが、スプリング・モーターにレバーがあってそれを左右に動かすことで演奏する曲数を選択できるようになっていました。

あちこちでいろいろなコイン・オペレートのディスク・オルゴールを聞きましたが、1枚のコインで2回演奏するようにセットされたものはシンフォニオン社製のエロイカを除いて、ただの一度もお目にかかっておりません。同じ曲を2回も鳴らすのはしつこいからでしょうか?それともこのような機能があることに、オルゴールのオーナーの方が気づいていないのでしょうか?

シンフォニオン社製のエロイカは高価なオルゴールですが演奏時間が大変短い(ディスクのサイズが小さいので)ので、2回演奏するようになったのでしょう。これも1回演奏しかできない個体(割と少ないように思います)と2回演奏を選択できる個体が混在しています。
分解掃除をする前のポリフォン104アップライト・オルゴールのスプリング・モーター
タイミング・ギア・アッセンブリー
分解掃除をする前のポリフォン104アップライト・オルゴールのスプリング・モーターです。タイミング・レバーを左右に動かすことでコイン1枚で1回演奏するか2回演奏するかを選択できます。とっても汚い、臭い。




分解掃除をした後のポリフォン104アップライト・オルゴールのスプリング・モーターを後ろから見たところです。タイミング・レバーにつながっている歯車類が見えます。タイミング・レバーを操作することで中央の長い縦の軸に小さな歯車が噛み合うか大きな歯車が噛み合うかでコイン1枚で1回演奏するか2回演奏するかを選択できます。
「あとりえ・こでまり」でリストア作業中に撮影、ピカピカに磨いて真新しい油の匂い付。

チューン・セレクター ( tune selecter )
g042 G0412 掲載 2020/10/20


普通のシリンダー・オルゴールシリンダーの表面には4〜8曲がリング状のピンの列となって記録されています。演奏している曲目が次の曲目に替わる時は、シリンダーがほんの少し左へ動いて、次のピンの列で櫛歯を弾いて次の曲を演奏するようになっています。最後の曲を演奏したらコンップレッション・スプリングがシリンダーを1曲目の位置(右端)まで押し戻しますが、このときに結構大きな衝撃音がします。一般的なシリンダー・オルゴールでは曲目を自由に選ぶことはできません、3番目を演奏したら次は4番目を演奏するようになっています。つまり1番目のピンの列を演奏している場合、6番目の曲を聴きたくても5番目の演奏が終った後でしか聴くことはできません。詳しくはシリンダー・オルゴールの曲目変更シリンダー・オルゴールの構造をご覧ください。
チューン・セレクター操作中 チューン・セレクター操作中
チューン・セレクター3番目を選択 チューン・セレクター3番目を選択
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任意の曲を直ちに聴くために開発された機構はチューン・セレクター(tune selector)又はチューン・スキッパー(tune skipper)と呼ばれます。但し曲目の選択はシリンダーの回転が停止している時しかできません。

いくつかの方式がありましたが、ここではメルモード社製のインターチェンジアブル・シリンダー・オルゴールでの操作方法(写真をご覧ください)を説明します。
@ 手でシリンダーを右方向に停まるまで押す。
A シリンダーを右方向に押したままで、チューン・セレクターのノブを左右に回す。
B 希望の曲の番号がSTÜCKの丸い窓に出るまでチューン・セレクターのノブを回す。
C 希望する曲の番号がSTÜCKの丸い窓に出たらシリンダーを押していた手を静かに離してから、スタートレバーを操作して演奏を始める。

ディスク ( Disc または Disk )
g042 G0406 掲載 2005/4/10 改訂2 2008/9/13

ディスクとはディスク・オルゴールで音楽のデータを記録した丸くて薄い鉄の板(今で言うソフト)のことです。ごく初期には亜鉛( Zinc )で作られたものもありましたが耐久性という点で鉄の板に取って代わられました。音とは無関係なはずのディスクの材質が音質にかなり影響があるのは不思議なことです、なぜなのかサイトオーナーは説明できません。経験則で言えばベストは分厚い亜鉛鍍金(白いメリケン粉のような錆を吹くのが特徴、当時は電気鍍金ではなくて、溶融した亜鉛に浸すいわゆるドブ漬だと推定しますが)のオリジナル・ディスクです。次点はバーリー・ジョンソン( Barry Johnson Music Box Co )のディスクでしょうか。

小さい物は直径が4インチ 1/2(11.5cm シンフォニオン社製)から大きなものはコメット社製の直径が33インチ 5/8(85.1cm)まで作られました。ちなみにコメット社製33インチのオルゴールは4台所在がはっきりしております。1台はドイツの博物館にありCD(WergoのSM 1201-50)で聞くことができます。日本にある内の1台は個人のコレクター、もう1台はオルゴールを修理する工房が持っていて修復作業中のようです。
最大のディスクと最小のディスク
センター・ドライブとペリフェラル・ドライブのディスク
左側は直径が33インチ 5/8(85.1cm)という最大のディスクを使用するコメット社製のディスク・オルゴール
右側は直径が4インチ 1/2(11.5cm )という最小のディスクを使用するシンフォニオン社製のディスク・オルゴールが組み込まれたユンハンス社製時計。
この写真はどちらも個人コレクターの好意で撮影したものです。

左はセンター・ドライブの13インチ5/8のディスク。シンフォニオン社製エロイカ用で3枚一組。
右はペリフェラル・ドライブのディスク。ポリフォン社製24インチ用のもの。どちらもリプロダクション
共にあとりえ・こでまりコレクション。

ディスクの互換性について当時は全く考慮に入れられていなかったようです。同じメーカーでもほとんど変わらないサイズのディスクが並行して生産されていました。たとえばシンフォニオン社のディスクのサイズは20もの種類がありました。回転方向も時計回り( clockwise )がほとんどですが、中には反時計回り( anticlockwise )のものも少しありました。同じサイズで異なる駆動方式のディスクが並行して生産されていたものもあります、在庫管理は大変だったことでしょう。当時のディスクの生産を担っていたのは主婦の人達です。今でも多くの種類のディスクがリプロダクションで販売されています。詳しくは当サイトのKioskのディスクカタログの項をご覧ください。

一枚のディスクに2曲が収録されているディスクについてはディスク・シフティング・ボックスの記事を参照してください。ダンスホールなどでは曲の始まりにある無音区間の無い連続演奏のためにディスクも作られました。このタイプは曲の冒頭にギャップ(プロジェクションの無い部分)が無いことと、ディスク表面にCONTINUOUSという表示が有るのが特徴です。

ディスクの駆動方法に関しては下記の3種類がありました。
センター・ドライブ GlossaryのG0324をご覧ください。
ペリフェラル・ドライブ GlossaryのG0622をご覧ください。
エッジ・ドライブピニオン・ドライブ  GlossaryのG0113をご覧ください。

ディスク・オルゴール ( Disc musical box )
g042 G0401 掲載 2005/4/10

音楽のデータを薄い金属製の円盤に突起(プロジェクション)や穴で記録したディスクを回転させ、スターホィールという星型の歯車を回転させて櫛歯を弾いて演奏する型のオルゴールです。その大きさはディスクの直径で表現されますが、小さいものは4インチ1/2(11.5cm)から大きなものは33インチ3/8(85cm)まで作られました。ケースの型はアップライト型テーブルトップ型コンソール型フォールディングトップ型などがありました。

また複数のディスクを同時に回転させる機種(マルチプル・ディスク)や、ディスクを自動的に交換させる機種(オートマチック・ディスク・チェンジ)も作られました。
アップライト型とテーブルトップ型
コンソール型とフォールディングトップ型
ポリフォン社製のアップライト型ディスク・オルゴール。大きさやデザインは当時のドイツ製で一般的なもので、営業用によく使われました。
この写真は京都市右京区にある京都嵐山オルゴール博物館の好意で撮影したものです。




エンプレスというブランドで売られていたメルモード社製のテーブルトップ型ディスク・オルゴール。主として家庭用。
撮影記録なし。






ミラというブランドで売られていたメルモード社製のコンソール型ディスク・オルゴール。
家具としての見栄えも考慮して作られた家庭用の豪華版。





レジーナ社製のフォールディングトップ型ディスク・オルゴール。
これは27インチという大きなディスクを家庭用として置ける大きさに収まるように工夫されたもの。
撮影記録なし。


ディスク・シフティング・ボックス、 ディスク・シフター ( disc shifting box )
g042 G0413 掲載 2005/9/4 改訂4 2007/10/14

シリンダー・オルゴールは収容できる曲数が少ないということでディスク・オルゴールが開発されたのですが、ディスクには1曲しか収容できません。そこでオートマチック・ディスク・チェンジのオルゴールが開発される少し前に1枚のディスクに2曲、または長い曲を2パートに分けて収容するように工夫されたのが、このディスク・シフティング・ボックスです。

このやり方はオートマチック・ディスク・チェンジのオルゴールが開発されるまでの短い過渡期に考案されたもので、その生産量は極めて少なく珍品としての評価が高いものです。

ドイツのライプチッヒ市にあったTannhäuser Musikwerke社で作られたタンホイザー( Tannhäuser )は手動で曲目の変更をするものです。
タンホイザーのディスク・シフティング・ボックス
シリオンの櫛歯周辺
ドイツのライプチッヒ市で作られた極めて珍しいタンホイザーのディスク・シフティング・ボックスです。これは1897年に取得した特許で作られたもので1899年に発売されましたが、会社は2年以内に閉鎖されました。Webb 氏のThe Musical Box Handbook Vol-2(Bibliography#48)によれば世界中で2台しか所在が判明していないようです。手動でケース前面にあるボタンを動かし、センター・ドームを左右に動かして曲を変えます。
この写真は東京都文京区にあるオルゴールの小さな博物館の好意で撮影したものです。


アップライト型シリオンの櫛歯周辺部分です。1曲目が終わるとセンター・ドームがほんの少し下に動いて同じディスクに記録されている2曲目を演奏します。2曲目が終わるとセンター・ドームが元の位置に戻ってディスクに記録されている1曲目を演奏できる位置につきます。あまり仔細に観察はしていないのですが、センター・ドームだけがわずかに上下に動きます。

この写真は広島市にある星ビルの好意で撮影したものです。
ドイツのドレスデンにあった Seidel und Nauman社(ザイデル・ウント・ノイマン?)が作ったディスク・シフティング・ボックスはシリオン ( Sirion )というブランドで販売されました。アップライト型テーブルトップ型が作られました。

スイスのパイラード社はニュー・センチュリーと呼ばれるディスク・ディスク・シフティング・ボックスのムーブメントだけを1902年ごろから生産し、多くはアメリカのシンフォニオン・マニュファクチュアリング社でケースに組み込んで販売されました。ディスク・シフティング・ボックス用のディスクは6000シリーズと呼ばれていました。MBSIの機関誌Mechanical Musi Vol.52-2 2006/3〜4のP32によれば、ニューセンチュリーのディスク・シフターは特別に薄いスターホイールを採用してプロジェクションが重なるのを避けていたようです。センターポストのシフト量は1/32インチ(0.8mm)というごく小さなものです。

本当にディスクがシフトしてもプロジェクションがぶつからないで演奏できるものでしょうか?サイト・オーナーはシリオンの演奏を見たことがあるのですが、センター・ドームのシフト量は思ったよりもごく僅かで、よっぽど注意していないと見逃してしまいます。当然ですが演奏は2曲とも問題なく進んで行きました!!


ディバイダー ( divider )
g042 G0414 掲載 2005/9/4

シリンダー・オルゴールの世界ではディバイダーには二つの意味があります。

ひとつはシリンダーの中に補強のために入っているドーナツ型の金属(真鍮製又は稀に亜鉛製)の円板(通常1枚、長いシリンダーでは2枚)のことです。
シリンダーを立てて見た断面図とディバイダー
キー・ワインドのシリンダー・オルゴールで、ケースの右側に仕切り板
シリンダーを立てて見た断面図です。シリンダーの中央部分にドーナツ型の円盤が入っています。セメントで固定されているので、加熱してセメントを流し出すと、一緒にディバイダーも出てきます。








シリンダー・オルゴールのケースの右側に仕切りがあり、そこに使用していないときにキーを入れておきます。
もう一つはキー・ワインドのシリンダー・オルゴールで、ケースの右側に仕切り板(ディバイダー)があり、そこに使用していないときにキーを保管しておきます。

テーブル・トップ型 ( table top style )
g042 G0415 掲載 2005/5/1

箱型のディスク・オルゴールで、下の写真のように小型のものが多く主として家庭用として数多く販売されていました。ディスクのサイズは15インチ以下が普通ですが中には20インチのものも作られました。サイト・オーナーは例外的に大きなポリフォン社の24インチ5/8のテーブル・トップ型を持っております。

中には小型のテーブルトップ型でも営業用に供されたのか、たまに15インチクラスのコイン・オペレートのものを見かけます。
レジーナ社製15インチのテーブル・トップ型ディスク・オルゴール
ポリフォン24インチ5/8t−ブルトップ型
レジーナ社製15インチのテーブル・トップ型ディスク・オルゴールで当時のベストセラーの機種。
この写真は東京都渋谷区にある川上楽器の好意で撮影したものです。









これはテーブルトップ型としては例外的に大きなポリフォン24インチ5/8のものです。
「あとりえ・こでまり」コレクション


デュプレックス・シリンダー ( duplex cylinder )
g042 G0416 掲載 2005/9/2 改訂2 2006/4/3

シリンダー・オルゴールが大きくなるにつれてシリンダーが長くなってきました。その過程で長い1本のシリンダーを2本のシリンダーに分割するというアイデアが生まれました。1887年にアルフレッド・ジュノーが特許を取得しています。しかしこの方式はどう考えても単純な1本の長いシリンダーでも不都合は無いわけで、なぜこのような複雑な方式を採用したのか理解に苦しむところです。もちろんこの方式のシリンダー・オルゴールはきわめて珍しいものです。この方式はパイラード社とメルモード社も生産しました。

2本のシリンダーを分けるのに2つの方式がありました。一つは2本のシリンダーを前後に並べておき、歯車で2本の軸の同期を取るものです。これはパラレル・デュプレックス( parallel duplex musical movement )と呼ばれ、この方式のほうが多く作られました。この方式のオルゴールのケースは奥行きが大きい独特のプロポーションを持っています。このタイプの写真はエンサイクロペディアQ. David Bowers氏著 The Vestal Press刊行「Encyclopedia of Automatic Musical Instruments」(このサイトの書籍目録19)の42,43ページで見ることができます。
パラレル・デュプレックスの写真
パラレル・デュプレックスとインライン・デュプレックスのイラスト
パラレル・デュプレックスの写真です。
写真で見られるように、奥行きの大きな独特のプロポーションのケースに入っています。この例は4台のスプリング・モーターを持つ大型機です。
この写真は兵庫県西宮市にある堀江オルゴール博物館の好意で撮影したものです。




パラレル・デュプレックスとインライン・デュプレックスのイラストです。


もう一つは1本の軸に2本のシリンダーを並べて串刺しにする方式です。これはインライン・デュプレックス( in-line duplex movement )とかラテラル・デュプレックス( lateral duplex )と呼ばれ、この方式はより珍しいものです。このタイプの写真はQ. David Bowers氏著 The Vestal Press刊行エンサイクロペディア「Encyclopedia of Automatic Musical Instruments」(このサイトの書籍目録19)の43ページで見ることができます。

どちらの方式も日本国内では兵庫県西宮市にある堀江オルゴール博物館で見学できます。

トリル ( trill )
g042 G0418 掲載 2005/4/10

音楽用でない普通の辞典を引くと装飾音は「ハーモニーやメロディーに必要不可欠ではない飾りとしての余分な音符」(Concise Oxford Dictionary 1990)というように定義されています。しかしオルゴールの世界ではこれが必要不可欠です。楽器の場合はたくさんの演奏家が集まって豪華な音を出す(オーケストラ)とか、音と音との間の空白の時間を絶妙のタイミングで作り出すとかの工夫が有効なのですが、オルゴールの場合はコツコツと事前に編曲者が準備した音の数で勝負を決めなければなりません。人の手による演奏(物理的な制約として人の手は2本、指は10本)とは違い、オルゴールは演奏技術的な制約が割と緩やかです。

トリル (顫音) の例 トリル (顫音) の例
左側は記譜、右側は実際の演奏です。2度高い音と元の音を連続して交代に鳴らします。キラキラとした華やかな音になります。

オルゴールでよく使われているのは上記のアルペジオとトリルの2つのやり方ですが、グリッサンド、モルデント、ターン(音楽辞典をご覧ください)なども使われています。BGM用として売られているサンプリングデータを用いて編曲したオルゴール曲のCDが単調なのはこの装飾を軽視しているからではないかと思います。
参考資料 やさしい楽譜入門 大橋祐多子著 1993年 西東社



トーレンス ( Thorens )
G0417
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イギリス Botanic Gardens and Magdalen Towerの風景を掲載しています。