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◆ プラハとウイーンのオルゴール Vol. 1 ◆
Essay002 掲載 2005/4/20 改訂1 2005/5/8

調律された鋼の櫛歯をはじいて音楽を演奏するというアイデアは1796年にスイス人アントワーヌ・ファーベルによって開発されました。そしてスイスの多くの企業によって一つの産業となり、スイス製のシリンダー・オルゴールは全世界に広まりオルゴールの代名詞となりました。しかし19世紀初頭においてはオーストリア・ハンガリー帝国のウイーンやプラハにおいてもウインナ・スタイル( Viennese style )と呼ばれているオルゴールが製造されていました。ウイーンとプラハのオルゴールは現代のコレクター達によってそのクラフツマンシップと優れた音質が高く評価されています。収集家にとって最後に収集対象となるのがこのウイーンやプラハのオルゴールであるといわれています。

ここでルゼビチェック製のシリンダー・オルゴールの音をお聞きください。曲目はフロトー作曲オペラ「マルタ」より「夏の名残の薔薇」です。

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典型的なウインナ・スタイルのオルゴール
典型的なウインナ・スタイルのオルゴール。 簡素なデザインのケース、比較的大きなスプリング・モーター、低音部の櫛歯がガバナー寄り(向かって右側)、単純な形のガバナー・ベーン(G0053の図を参照)に注目してください。
この写真は兵庫県西宮市にある堀江オルゴール博物館の好意で撮影したものです。

ビーダーマイヤー様式の時計(暖炉の上に飾るためのマントル・クロック)に組み込まれたウインナ・スタイルのオルゴール
出典Kammspielwerke aus Wien und Prag:Opernmelodien OEAW PHA CD 10 ( Musical Boxes from Vienna and Prague: Operatic Melodies )のジャケット


プラハにおいてはフランチシェック・ルゼビチェック(Frantisek Rzebitschek)がアロイス・ヴィレンバッハー(Alois Willenbacher)とともにオルゴールメーカーを1819年に創業しました。事業は息子のグスタフ(Gustav)によって継承されましたが1897年に社業を閉じております。ウイーンにおいてはアントン・オルブリッヒ(Anton Olbrich)とその兄弟ヨゼフ(Josef)によって1823年に創業されました。ヨゼフの事業はヨゼフ・ヴィスコシル(Josef Wsykocil)によって継承され20世紀初頭まで営業を続けていました。

その外にプラハとウイーンではアインシドル( Einsidl)、シドロ(Schidlo)、シュテルン(Stern)、プライスラー(Preissler)、バルテル(Bartel)などがオルゴールを製造していましたが生産量は少なく現在ではほとんど知られていません。ルゼビチェックはムーヴメントをオーストリア・ハンガリー帝国の領内全域に販売する最大手の企業であり、また輸出も手がけて万国博覧会で賞を何度も得ております。
ビーダーマイヤー様式のマントル・クロックに組み込まれたウインナ・スタイルのオルゴール
アントン・オルブリッヒ製のムーヴメント中でも大型のもの アントン・オルブリッヒ製のムーヴメント中でも大型のもの。単純な形のガバナー、右側に低音(長い櫛歯)が配置されているのに注目してください。
出典 Kammspielwerke aus Wien und Prag:Tanzmusik OEAW PHA CD 6
( Musical Boxes from Vienna and Prague: Dance Music )のジャケット


ここでアントン・オルブリッヒ製のシリンダー・オルゴールの音をお聞きください。曲目はシュトラウス作曲舞曲「チゴイネル・カドリール」です。

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ルゼビチェックとオルブリッヒはスイス製とは逆に低音側の櫛歯が右側、ガバナーの左隣に位置するという特徴を持つウインナ・スタイルと呼ばれるムーヴメントのデザインを最初の年に確立しました。またピンの長さがスイス製と比べて長いのも特徴です。最も太くて長い最低音の櫛歯に2つのチップが取り付けられているものもありました。両者の間には何らかの提携関係があったらしく両社の製品の構造には共通のスタンダードモデルを作ろうとした形跡があります。2曲モデル(このタイプがもっとも多く作られました)のシリンダーは長さが100mm、直径が25mm、櫛歯は80または83本です。3曲モデルはシリンダーの長さが124-145mm、櫛歯は91本から98本、4曲モデルはシリンダーの長さが195-220mm、櫛歯は約97本でした。全生産期間を通じてすべてのモデルは元の設計を変えずに生産され、他のプラハとウイーンのオルゴールメーカーによっても同じような様式が採用されていました。

スイスとは異なる設計にしなければならなかったのは当時のヨーロッパの政治状勢に起因するものがありました。1815年にウイーン条約が結ばれスイスの中立が保障されましたが、同時にスイスからオーストリア・ハンガリー帝国に対する禁輸措置が講じられました。オーストリア・ハンガリー帝国で販売されるオルゴールは部品も含めてスイス製と間違われてはいけない、つまり一見してスイス製とは異なる外観を持っていなければならなかったためです。

ルゼビチェックとオルブリッヒはともにチューン・シートに2つの番号を記載していました。一つは製造番号であり、もう一つはそのシリンダーに打ち込まれた曲目の番号(小さい方の番号が曲目番号)です。その製造番号から推定してルゼビチェックは51,000台程度、オルブリッヒは26,000台程度製造しました。ムーヴメントは主として置き時計(Austrian Mantle Clock)、ミュージカル・タブロー(風景の一部に時計台等が描かれた油絵)、手芸用バスケットなどに組み込まれました。スタート・ストップや曲目変更はムーヴメントの底を通っている紐(コード)によって操作されるものが多いです。もちろん普通のケースにも組み込まれました、例外もありますが総じてそのケースは何の飾りもないプレーンなものが多かったようです。ルゼビチェックとオルブリッヒは6曲ないし8曲のムーヴメントも作りましたが現在残っているものはまれです。

Reproduced with permission from “Kammspielwerke aus Wien und Prag:Tanzmusik OEAW PHA CD 6 Musical Boxes from Vienna and Prague: Dance Music” and “Kammspielwerke aus Wien und Prag:Opernmelodien OEAW PHA CD 10 Musical Boxes from Vienna and Prague: Operatic Melodies” by Prof. Dr. Dr. h.c. Herwig FRIESINGER, Generalsekretär der Österreichischen Akademie der Wissenschaften.
原著作権者Prof. Dr. Dr. h.c. Herwig FRIESINGER, Generalsekretär der Österreichischen Akademie der WissenschaftenよりこのCDのジャケットの翻訳および曲の一部をこのサイトに掲載することについて2005年1月10日付書面(e-mail)で許可を受けております。 転載禁止


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