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Page No.13
◆ ディスク・オルゴールに使われている音階 ◆
Essay013 掲載 2005/5/30

ディスク・オルゴール櫛歯を構成している音はどんな組み合わせになっていて、どのように使われているのでしょうか?オルゴールはピアノのように一つの音に一つの鍵(キー)が割り当てられている、すなわち鍵盤を構成している全ての音が異なるというわけではありません。いろいろな曲を演奏しなければならないディスク・オルゴールでも、よく使われる音は同じ高さの音がいくつも組み込まれているのです。オルゴールは1回櫛歯を弾いて音を出すと次にその櫛歯を弾くまでに一定の時間間隔が必要なのです。トレモロとかマンドリンのような連続音を表現したいときは4〜5本の同じ高さの音を出す櫛歯を用意して交互に弾いて音を出さねばなりません。

サイト・オーナーはポリフォン 24インチ5/8のディスク・オルゴール(この機種はポリフォン社で最大のもので代表といっても良いでしょう)を持っていますが、Graham Webb氏の本「The Musical Box Handbook Volume2 Disc Boxes」(このサイトのBibliography 書籍目録47と48)によれば、この機種の音階構成は表1(この表は第2版を参考にしました、初版は表現が異なります)のようになっています。この表に関して我がMBSI日本支部会員であるT氏はラージ・アッパー・コームの7,8,9,12とラージ・ロワー・コームの8,13,14の誤りを指摘しておられました。同様に19インチ5/8に関しても多くの誤りがあるそうです。

サイト・オーナーは19インチ5/8のリストア作業の折にコルグのチューナー(MT-1200)とコンタクト・マイクを使って計測しましたが、低いほうに行くにしたがって大きくズレが認められました。結局これはピアノの調律で言うストレッチであると推論し、チューニングには手をつけなかったのですが大過なくまとまりました。ディスク・オルゴールの調律では少なくとも「純正律」という一言での単純な説明ではムリがあります。ポリフォン19インチ5/8を計測では基準のAを440Hzとするとうまく音階を構成できませんでした。Aを430Hzにすればかなりうまく音階の説明ができました。櫛歯のチューニングについては大変デリケートな問題であり、どなたかが決定版の研究をしてくれないかなと思っております。きわめて保存状態の良いオルゴールを見つけてきて(とっても困難)厳密に音を計測し、実際のディスクと突き合わせて和声学上の問題点を解決しながら音の高さとストレッチの程度を決定しなければなりません。またシンフォニオン社製のオルゴールは理論値からかなりかけ離れた特殊な調律をやっていたと聞きました。理論値どおりの調律をやると極めて面白くない音楽を演奏するようになってしまうそうです。

表1で見られるようにポリフォン24インチのオルゴールは159本の櫛歯を持っております。その構成は下記のとおりです。
    Large Upper Comb (ラージ・アッパー・コーム)    上段の長い櫛歯 60本
    Small Upper Comb (スモ−ル・アッパー・コーム)   上段の短い櫛歯 20本
    Large Lower Comb (ラージ・ロワー・コーム)       下段の長い櫛歯 59本
    Small Lower Comb (スモ−ル・ロワー・コーム)     下段の短い櫛歯 20本
そのほかにハイト・ホイール(イラストG0056ディスク・オルゴールを参照)のために2本の先端が切断された櫛歯があるので合計161本となります。低いほうから順番に番号を割り付けると53番と107番がこの音の出ないダミーの櫛歯となります。長い櫛歯(ラージ・コーム)の低い方から順番に音が高くなっていきますが、短い櫛歯(スモール・コーム)になったとたん少し音が下がり、また順に音が高くなっていきます。

この櫛歯の音が演奏でどのように使われているのか調べてみようと思い立ち次の写真のような採譜器(というか定規のようなもの)を設計して作ってもらいました。この採譜器では1曲採譜するのに4日以上(再度計測してチェックするため)かかります。途中で作業に飽きるのと目がおかしくなってくるからです。とりあえず代表的なディスク6枚選んで採譜してみました。めちゃくちゃ音の数の多い曲(ZampaのOvertureなどはプロジェクションが大変多くてディスクの向こう側が透けて見えます)は敬遠しました。プロジェクションの数は少ないものでSpinn Spinnの1644個、多かったのはThe Last Rose of Summerの2803個(これぐらいがポリフォン24インチ5/8の平均値でしょう)です。結果は表2のとおりです。
完全手動の採譜器
左の写真は完全手動の採譜器です。
大きなプラスチックの厚板を大きな旋盤やフライス盤などを使って特別注文で機械加工したためかなり高価なものになってしまいました。腕木に取り付けられた針をディスクのプロジェクションに落とし込んで、その位置を円周に貼り付けられた2000mmのスケールで読み取るものです。

表2を見ると#(♭)の付く音が少ない(黄色で着色しました、#で調律された櫛歯の数も、それを使用する回数も共に少ない)のに注目してください。ディスク・オルゴール自体がパブ等の賑やかな場所で陽気な音楽を演奏するように設計されていたためでしょうか?ディスク・オルゴールは日本人好みの暗くて渋い短調の音楽はかなり苦手のように感じました。

完全手動の採譜器でディスクを計測するのはどうしても誤差が伴います。採譜器の周囲に貼り付けたスケールは2000mmなのですが、1mm単位で誤差が出ないように力加減を上手く調整しながら2500回X2=5000回も目盛を読み取るのは至難の技です。時間と根気も必要ですが、視力が伴いません。そこでこの問題を少し解決するために下の写真のような半自動の採譜機を作ってみました。少し問題があって、採譜後に表計算ソフトなどでかなりややこしい補正式を入れないと上手く採譜できません。このCSVデータをMIDIデータに変換するコンバーター・ソフトを息子と共同で開発中です。詳細は後日のEssayでの報告とします。
半自動の採譜機 左は半自動の採譜機です。コンピューターとはオフラインです。データはCSVフォーマットで採譜機のSDメモリーカードに記録されます。SDメモリーカードをUSBのカードリーダーを介してパソコンに読み取らせます。

ディスクのプロジェクションの位置をトラック(櫛歯を弾く位置は159個の同心円上に記録されています)毎に不動の基準点(鉄の小さなブロックを演奏スタート位置の少し手前に取り付けておく)を近接センサーがセンスしてからの経過時間を1/10,000秒単位で計ってSDメモリーカードにCSVフォーマットで書き出すものです。SDメモリーカードのCSVフォーマットはUSBカードリーダーを介するとパソコンで容易に読み取れて、表計算ソフトや自作のソフトで編集や加工ができます。出来上がった半自動採譜機を使ってテストした結果1曲採譜するのに必要な時間が3時間あまりに短縮されました、従来の完全手動採譜器では1曲分を採譜とチェックするのに短くても4日間の難業苦行が必要でしたが。この機械はトラック方向にレーザー・センサーを移動するのにボールネジのハンドルを手で回しています。この部分をフィードバック回路で自動化すれば採譜機が全自動で作業を進めてくれるのです、つまりオペレータにとっての処理時間はゼロ(セットしたら放っておくだけ)になります。全自動にすれば計測時間を長く取って精度を上げることが可能ですし、手持ちの50枚のディスク全て(他のメーカーのディスクにも興味があります)を計測して古い魅力にあふれた編曲手法の秘密に迫れるのではないかと思っております。

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